相続で借地を引き継いだ。あるいは、借地権を売却しようとしている。名義変更の手続きを進めようとしたところで、話が止まった。
名義変更の場面で話し合いが止まるとき、「手続きの問題」に見えることがあります。
ただ整理してみると、手続きの前に「承諾そのものに対する認識」がズレていることがあります。
こういう会話が止まる
借地人(相続人):「父が亡くなり、借地権を引き継ぎました。名義変更をお願いしたいです。」
地主:「承諾料をいただく形になります。」
借地人:「相続なので、承諾料は発生しないと聞いていましたが。」
地主:「相続はそうですが、今後の契約関係について確認したいことがあります。」
借地人:「確認というのは、どういうことですか。」
地主:「条件を改めて整理したいと思っています。」
どちらも話しています。しかし、どこかでかみ合わなくなります。
「名義変更」という言葉を、借地人は「続きの手続き」として使っています。地主は「関係が変わるタイミング」として受け取っています。
同じ場面を見ながら、意味の重さが違います。
名義変更に対する認識の違い
名義変更の場面では、いくつかの認識のズレが重なります。
相続と売買の違いに対する認識
相続による名義変更は、法律上、地主の承諾を必要としないとされています。借地権が相続財産として承継されるためです。ただし、実務上は「事前に地主に報告・確認する」という慣行が続いているケースがあります。この「報告」を、地主側が「承諾の機会」と見ている場合、話が止まることがあります。
一方、売買による借地権の譲渡は、地主の承諾を要します。この場合、承諾料を求めることは一般的に行われています。相続と売買で法律上の扱いが異なりますが、地主側がその区別をどこまで整理しているかによって、話し合いの前提が変わります。
「相手が変わること」の重さの違い
地主にとって、借地人が変わることは「誰に貸すか」という問題です。長年の関係があった借地人の次に来る人が誰かは、地主にとって重要なことがあります。「これまでの関係があってこそ安心して貸してきた」という感覚は、ここから来ています。
借地人の相続人にとっては、親から自然に引き継ぐものとして受け取っています。「誰が引き継ぐか」という問題として捉えていないことがあります。
条件の見直しを含むかどうかのズレ
名義変更のタイミングを、地主が「条件を整理する節目」として使おうとすることがあります。地代の見直し、期間の確認、その他の条件変更を、名義変更と一緒に話し合いたいという場合があります。借地人側は名義変更だけを終わらせるつもりで来ているため、話の範囲が最初から違います。
名義変更をめぐる話し合いは、「何の話をしているか」という前提が揃わない限り、成立しない構造になっています。
承諾料を求める根拠の違い
名義変更の場面で承諾料の話が出るとき、その根拠も複数あります。
慣行としての承諾料
売買による譲渡承諾の場面では、承諾料を求めることが慣行として定着しています。その割合は「借地権価格の○%」という形で表現されることが多いですが、この数字の根拠が何かは、必ずしも明示されません。
関係変化への対価として
これまでの借地人との関係が変わることに対して、地主が対価を求めるという考え方です。相続の場面でも、「これを機に関係を整理したい」という意向が含まれることがあります。
手続き上の確認として
承諾料というより、名義変更に伴う諸手続きの確認費用という形で話が出ることもあります。これは承諾料とは別の話ですが、同じ文脈で持ち出されることがあります。
整理から確認できること
名義変更の話を始める前に、確認できることがあります。
- 今回の名義変更は相続によるものか、売買によるものか
- 契約書に名義変更や譲渡に関する記載があるか
- 過去に同様のケースがあったか。そのときどう扱われたか
- 地主側は名義変更に対して何を求めているのか、その根拠は何か
これらが整理された状態になると、「何について話し合う必要があるか」が見えてきます。借地の金額の全体整理もあわせてご確認ください。
おわりに
名義変更の話が止まるとき、手続きが複雑なのだと感じることがあります。
ただ整理してみると、手続きの前に「名義変更という場面をどう捉えているか」が揃っていないことが多いです。
どちらが正しいのではありません。見ている重さが違うだけです。
今の名義変更がどういう状態にあるかを把握することが、次の判断につながります。
この記事のポイント
- 名義変更の話が止まるとき、手続き上の問題ではなく「名義変更をどういう場面と見ているか」の認識がズレていることが多い
- 相続による承継と売買による譲渡では法律上の扱いが異なるが、地主側がその区別をどう整理しているかで話の前提が変わる
- 地主にとって「相手が変わること」は重大な変化であり、借地人の相続人にとっては自然な引き継ぎである、という認識の差がある
- 名義変更のタイミングを条件見直しの節目として捉える地主と、名義変更だけを済ませたい借地人とでは話の範囲が最初から違う
- まず「今回の名義変更が相続か売買か」と「契約書の記載」を確認することが、話し合いの出発点になる
状況によって前提が異なるため、一つの正解があるわけではありません。整理することで、次に何をすべきかが見えてくる可能性があります。
借地の整理で迷っている方へ
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