COLUMN

承諾料の考え方がバラバラになる理由

承諾料には法律上の算定基準がなく、慣行・個別事情・過去の実績など複数の考え方が混在しています。話が進まなくなる構造と整理の出発点を見えやすくします。

承諾料の話になると、どこから始めればいいか分からなくなる。

そういう感覚を持つ方は少なくありません。

建替え、名義変更、増改築。どの場面でも「承諾料」という言葉が出てきます。しかし、その金額の根拠を聞いても、明確な説明がないことがあります。

承諾料に決まった計算式がないのは事実です。ただ、「決め方がない」のではありません。「複数の前提が並存している」状態が、承諾料をめぐる話をわかりにくくしています。

こういう場面で止まる

地主:「承諾料は更地価格の○%で考えています。」

借地人:「その割合はどこから来ているのですか。」

地主:「一般的な慣行です。」

借地人:「慣行といっても、地域や業者によって違いますよね。」

地主:「そうは言っても、目安が必要です。」

借地人:「どうしてその割合なのかが分からないと、判断できません。」

会話は進んでいます。言葉は届いています。それでも、話が前に進みません。

「一般的な慣行」と言っている地主と、「根拠を確認したい」と言っている借地人は、同じ承諾料について別の問いを持っています。

地主にとって「慣行」は根拠です。借地人にとって「慣行」は根拠の説明になっていません。

同じ「慣行」という言葉でも、それが話し合いの前提になるかどうかが、双方で違います。

承諾料の話し合いは、「何を根拠と見なすか」という前提が揃わない限り、成立しない構造になっています。

承諾料の考え方は複数ある

承諾料には、法律上の規定がありません。そのため実務では、以下のような考え方が混在しています。

更地価格割合という慣行

「更地価格の○〜○%」という形で承諾料を計算する慣行は広く使われています。建替えであれば更地価格の○%、譲渡であれば借地権価格の○%という目安が流通しています。ただし、この割合は地域・時代・仲介者によって異なり、根拠の説明が明示されないことがあります。「慣行だから」という説明は、求める側には根拠ですが、求められる側には根拠に見えないことがあります。

個別事情による考え方

承諾料の金額は、土地の立地・借地権の残存期間・建物の状態・地主との関係性など、個別の事情によって変わるという考え方があります。一律の割合よりも、その案件の状況を反映した金額を交渉で決めるという場面があります。この考え方では、「いくらが適正か」という問いに答えを出すことが難しくなります。

過去の取り扱いとの整合性

同じ物件で過去に承諾料のやり取りがあった場合、それが一つの基準になります。「前回はこうだった」という実績は、どちらの側にとっても根拠になります。ただし、前回の経緯が記録されていない場合、双方の記憶が食い違うことがあります。

市場的な見方

借地権の取引価格から逆算して、承諾料の妥当性を考える見方があります。市場でその借地権がいくらで取引されるかを前提に、承諾料の水準を判断するアプローチです。ただしこれも、市場価格そのものに幅があるため、結論が一つに定まりません。

関係性や交渉による調整

長年の信頼関係がある場合、承諾料を減額するか請求しないという判断が行われることがあります。反対に、関係が悪化している場合は、承諾料の交渉が対立的になりやすい側面もあります。承諾料が、金額そのものではなく関係性の表れになっているケースがあります。

「根拠がない」と「複数の前提がある」は別の話

承諾料をめぐる話し合いで「根拠がない」という言葉が出ることがあります。

ただ、これは「決め方が存在しない」という意味ではありません。「一つの決め方に全員が同意しているわけではない」という意味です。

複数の考え方が並存しているために、一方が「当然の根拠」として提示したものが、他方には「根拠に見えない」という状態が生まれます。

「根拠がない」という感覚は、この構造から来ていることが多いです。基準のズレが起きる構造についても、あわせて確認してみてください。

整理から始まること

承諾料の話し合いに入る前に、確認できることがあります。

  • 今回の承諾料は、建替えか、名義変更か、増改築か。場面によって性格が異なる
  • 地主側はどの考え方を根拠に金額を出しているか
  • 借地人側は何を根拠と見なした場合に話し合いに応じられるか
  • 契約書に承諾料に関する記載があるか
  • 過去に同様の場面があったか。そのときどうなったか

これらが整理された状態になると、どの前提で話しているかが見えてきます。前提が揃った段階で、金額の話し合いができる状態になります。

おわりに

承諾料の話し合いが難しいと感じるとき、その原因は「決め方がないから」ではないことが多いです。

複数の考え方が並存している中で、どの考え方を前提にするかが揃っていないことが、話を難しくしています。

承諾料にどういう考え方があるかを把握することが、次の判断につながります。

この記事のポイント

  • 承諾料に法律上の算定基準はなく、実務では更地価格割合・個別事情・過去の実績・市場的な見方など複数の考え方が混在している
  • 「根拠がない」という感覚は「決め方が存在しない」のではなく「一つの前提に全員が合意していない」状態から来ている
  • 慣行として流通している割合(更地価格の○%など)は根拠として使われるが、求められる側には根拠として見えないことがある
  • 承諾料の性格は建替え・譲渡・増改築など場面によって異なり、同じ「承諾料」でも話の前提が変わる
  • まず「どの考え方を根拠に話しているか」と「契約書の記載・過去の実績」を整理することが、話し合いの出発点になる

状況によって前提が異なるため、一つの正解があるわけではありません。整理することで、次に何をすべきかが見えてくる可能性があります。

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代表取締役 井口雄介

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