複数の承諾料が同時に発生するとき

借地上で建て替えをするとき、建替承諾料だけが論点になるとは限りません。

建物の構造を変える、用途を変える——これらが重なると、複数の承諾料が同時に問題になります。

木造住宅を鉄骨造の賃貸アパートに建て替えるようなケースは、その典型です。

木造住宅を鉄骨アパートに建て替える、というケース

借地に建っている木造の自宅が老朽化したので、鉄骨造のアパートに建て替えたい、という相談はしばしばあります。世代交代のタイミングで、自宅を維持するのではなく賃貸物件に切り替えて資産活用したい、という背景です。

このケースで起きていることを分解すると、3つの変更が同時に起きています。

建て替えそのもの
古い建物を取り壊して新しい建物を建てる行為。借地契約上、建て替えには地主の承諾が必要なのが通例で、建替承諾料の対象になる。
構造の変更(木造 → 鉄骨造)
木造などの非堅固な建物から、鉄骨造や鉄筋コンクリート造などの堅固な建物への変更。旧借地法の借地では、契約期間が大きく延びる「条件変更」に該当する。
用途の変更(自宅 → 賃貸物件)
自宅として使っていた建物を、第三者に賃貸する物件に変える。土地の使われ方が変わり、地主側の地代算定の前提も変わる「条件変更」に該当する。

この3つは、それぞれ別の承諾料の対象になります。木造住宅を鉄骨アパートに建て替えるという一つの行為の中に、複数の承諾料が同時に問題として現れる構造です。

なぜ複数の承諾料が必要とされるのか

複数の承諾料が発生する根拠は、借地法と借地借家法の構造にあります。

建て替えそのものへの承諾料(建替承諾料)は、地主が借地上に新しい建物が建つことを承諾する対価として、慣行として発生します。借地借家法17条2項では、地主が承諾しない場合、借地人は裁判所に増改築の許可を申し立てることができ、裁判所が許可する際に「財産上の給付」を命じることがあると定められています。

構造の変更について見ると、旧借地法では建物の構造によって契約期間が異なっていました。木造などの非堅固建物は20年(更新後10年)、鉄筋コンクリート造などの堅固建物は30年(更新後20年)と定められていました(旧借地法2条)。木造から堅固建物への変更は、契約期間が大きく延長されることを意味し、地主側にとっては土地の利用が長期にわたって借地人に固定される影響があります。

用途の変更については、自宅から賃貸物件や事業用に変わることで、借地人が土地から得る収益が変わります。地代の算定基準も、住宅用と事業用では水準が異なります。地主側にとっては、これまでの前提から契約条件が変わる影響への対価という位置づけになります。

これらは別々の影響に対する別々の承諾料です。木造住宅を鉄骨アパートに建て替えるケースでは、3つの影響が同時に発生するため、3つの承諾料が同時に問題になります。

整理するとどうなるか

複数の承諾料が問題になるケースで、最初に確認すべきは契約類型です。

旧借地法の契約か、普通借地権の契約かで、構造変更の扱いが変わります。普通借地権では、堅固・非堅固の区別がなく契約期間は一律30年とされているため(借地借家法3条)、構造変更による契約期間の延長は発生しません。この場合、構造変更承諾料の論点は理論上発生せず、建替承諾料と用途変更分の借地条件変更承諾料の2つに整理されます。旧借地法の契約であれば、構造変更分も含めて3つの論点になります。

次に、それぞれの参考レンジを並べてみます。建替承諾料は更地価格の3〜5%程度、借地条件変更承諾料は更地価格の8〜12%程度が一般に参照されます。3つすべて発生するケースでは、単純に合算すると更地価格の20〜25%程度になりますが、実務では別々に合算するのではなく、変更全体に対する一括の承諾料として話し合うことが多くあります。

地主側の認識と借地人側の認識を揃えることも必要です。地主側は3つの影響を別々に評価しがちな立場、借地人側は建て替え一括の手続きとして捉えがちな立場、というズレが生まれやすいケースです。捉え方の差を認識した上で、何に対する承諾料なのかを一つずつ確認していくことになります。

地主が承諾しない場合は、借地人が裁判所に借地条件変更の申立てを行うことができます(借地借家法17条1項)。裁判所が条件変更を許可する場合、付随処分として財産上の給付(承諾料)の支払いを命じることがあり、この運用基準も実務上ある程度確立しています。ただし、ここまで進む前に当事者間の話し合いで合意するケースが多いのも実情です。

関連する他のコラム

個別の承諾料の構造については、それぞれ別のコラムで扱っています。

参考にした法律・資料

  • 旧借地法2条:建物の構造(堅固・非堅固)により借地契約の期間を区別する規定。1992年7月以前�